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大阪高等裁判所 昭和27年(ネ)136号 判決

控訴人 吉本彌寿子

訴訟代理人 段林作太郎

被控訴人 松本きよ

訴訟代理人 改田四郎 外一名

主文

原判決を取消す。

原審が昭和二六年(ヨ)第四八号仮処分事件について同年一〇月二四日した仮処分決定を取消す。

本件仮処分の申請を却下する。

訴訟の総費用は控訴人の負担とする。

この判決は第二項に限り仮りに執行することができる。

理由

本件記録を審査するに、本件仮処分申請書によれば本件は「債権者(控訴人)が神戸地方裁判所に債務者(被控訴人)に対し親権喪失を求める申立を為す準備中であるが、右裁判の結果を待つにおいては債務者が親権を濫用して未成年者松本克彦の相続した財産を売却処分の上行方をくらます虞れがあり、克彦のため回復することができない損害を蒙るに至るから、債務者に対し右克彦に対する親権の行使の停止並びにその停止期間中森信三の克彦に対する親権代行の仮処分を申請する」というにあつて、本件申請は民事訴訟法による仮処分の申請てあつて家事審判規則第七四条による「親権者の職務の執行を停止し又はこれを代行する者を選任する申立」てないことは明かである。民法第八三四条による親権の喪失の宣告についての審判は家庭裁判所の権限に属し(家事審判法第九条第一項甲類十二)その宣告前の保全処分の申立は右の家事審判規則によるべきものであつて、これについて民事訴訟法上の仮処分の申請の許されないことは明白である。民事訴訟法に定める仮処分と家事審判規則に定める処分とは各その性質及び手続を異にし、法律上の効果も同一でないことは両者の各規定を対照して自ら明かである。従つて本件仮処分の申請をそのまま右規則による処分の申立としてこれを家庭裁判所に移送することもまたできないのであつて、本件仮処分の申請は却下すべきである。しかるに原審が本件について先きに仮処分の決定を為し、またこれの異議について審理判決をしたことは違法であるから取消すべきものである。よつて民事訴訟法第三八六条第九六条第七五六条の二を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 田中正雄 判事 平峯隆 判事 藤井政治)

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